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神戸地方裁判所 平成2年(ワ)938号 判決

原告(反訴被告)

住俊博

被告(反訴原告)

小瀬木秀人

主文

一1  原告(反訴被告)と被告(反訴原告)間において、原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する別紙事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が後記主文第二項1の金額を超えて存在しないことを確認する。

2  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

二1  反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)に対し、金一六二万七四一〇円及び内金一一九万二〇七八円に対する平成三年六月八日から、内金四三万五三三二円に対する平成三年一〇月二四日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  反訴原告(被告)のその余の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを五分し、その一を原告(反訴被告)の、その四を被告(反訴原告)の、各負担とする。

四  この判決の主文第二項1は、仮に執行することができる。

事実及び理由

以下、「原告(反訴被告)住俊博」を「原告」と、「被告(反訴原告)小瀬木秀人」を「被告」と、各略称する。

第一請求

一  本訴

原告と被告間において、原告の被告に対する別紙事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が存在しないことを確認する。

二  反訴

原告は、被告に対して、金八六一万二八八〇円及び内金六三〇万九一五九円に対する平成三年六月八日(反訴状送達の日)から、内金二三〇万三七二一円に対する平成三年一〇月二四日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動二輪車と衝突した普通乗用自動車の運転者が、右自動二輪車の運転者との間で、同人に対する右交通事故に基づく損害賠償債務が不存在である旨の確認を請求(本訴)し、右自動二輪車の運転者が、右交通事故により負傷したとして、右普通乗用自動車の運転者に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求(反訴)した事件である。

一  争いのない事実

本訴・反訴に共通

1  別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生。

2  被告は、本件事故により、両前腕打撲擦過傷・左脛骨前顆亀裂骨折・口腔内裂傷・右尺骨神経麻痺の各傷害を受けた。

反訴

1  原告の本件責任原因(転回禁止場所における自動右後方の安全不確認。民法七〇九条所定。)の存在

2  被告の本件受傷治療における次の経過。

行岡病院 平成元年八月二九日から同年八月三一日まで入院二日、通院一日。

市立伊丹病院

整形外科 平成元年八月三一日から同年一二月三一日まで一二三日間

歯科口腔外科 平成元年九月一日から平成二年一月九日まで一三一日間

3  被告に障害等級一二級一二号該当の本件後遺障害が残存している。

4  損害の填補。

(一) 原告の内払金 金一一九万七一八四円

(二) 自賠責保険金 金二一七万円

合計 金三三六万七一八四円

二  争点

反訴

1  被告の本件治療経過(当事者間に争いのない分を除く。)

被告の主張

(一) 被告は、本件受傷治療のため、市立伊丹病院に平成二年一月一日から同年一一月三〇日まで通院した。

しかして、同人の本件受傷の症状固定は、平成三年一〇月二四日である。

(二) 被告は、本件事故前の昭和六三年八月二一日、自動二輪車の運転中別件交通事故に遭遇受傷したが、右受傷は、両腕と膝の擦過傷と腕の神経の痺れであつた。しかし、腕の痺れは数日後に回復する程度の軽傷であり、右受傷は、本件事故当時、既に完治していた。

又、被告は、本件受傷治療期間中の平成二年一月一日、奈良県十津川村の幹線道路において、普通乗用自動車を運転し交通渋滞のため停車中後続車両に追突され、頸部挫傷の傷害を受けた。

しかし、被告の右事故による受傷は軽微であり、本件事故による受傷の治療には何ら影響を及ぼしていない。

原告の主張

(一) 被告の主張(一)の事実は否認。

被告の本件受傷の市立伊丹病院における最終治療日は、平成元年一二月一九日である。被告は、同人が主張するとおり平成二年一月一日普通乗用自動車を運転中別件交通事故に遭遇しているのであり、右事実からして、同人の本件受傷、特に両前腕打撲擦過傷については、右同日治癒もしくは症状固定していたというべく、したがつて、同人の右同日以後における治療は、本件事故とは相当因果関係がない。

(二) 被告が、昭和六三年八月二一日及び平成二年一月一日別件交通事故に遭遇していることは認めるが、その余の主張事実は否認。

被告は、昭和六三年八月二一日の交通事故により両肘前腕擦過創・右前膊神経障害を受傷した。

しかして、右受傷の治療については、伊丹市常岡病院の昭和六三年一一月一四日付診断書によると、「特に両肘関節部の創やや強度、創の治療を見るも、右前膊神経症状等持続し難治」と所見されている。

したがつて、同人の本件受傷の治療は、右既往症との競合により、その相当因果関係の存在につき疑問がある。

2  被告の本件損害の具体的内容

3  過失相殺の成否

原告の主張

(一) 本件事故現場は、国道一七六号線の十三方面(北方)から梅田方面(南方)に向かう、片側三車線路上であるが、各車線は、本件事故直前、渋滞車列が連なつていた。

原告は、この道路状態の中で同道路の右端車線から原告車を時速五キロメートルの速度で対向車線側に向け転回を開始した。

(二) 被告は、本件事故直前、被害車を運転し原告車の後方を同車両と同一方向に向け進行していたが、原告車が本件転回を開始した際、同車両の後方から同車両の右側路上に設置されたゼブラゾーンを、徐行することもなく時速約四〇キロメートルの速度で、しかも、前方不注視のまま追抜き通過を図り、原告車の右前角部に被告車の左側面を衝突させ、右事故を惹起した。

(三) 右主張のとおり、本件事故の発生には、被告の過失も寄与しているから、同人の同過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌されるべきところ、斟酌すべき同人の同過失割合は、二〇パーセントが相当である。

被告の主張

原告の主張(一)中原告車の本件転回の際の速度を争い、その余の事実は認める。同(二)中被告が本件事故直前被告車を運転し原告車の後方を同車両と同一方向に向け進行していたこと、被告車の右側路上にゼブラゾーンが設置されていたこと、被告が右事故直前原告車の右側を通過しようとしたことは認めるが、その余の事実は全て否認。同(三)の主張は争う。

被告は、右事故直前、被告車を運転し、渋滞車列の右側を通り抜けようと右ゼブラゾーンの左横車線の右端部分付近を時速約五キロメートルの速度で走行中、右事故現場付近に到達した際、自車前方で原告車がその前部を右側に振るのが見えた。

そこで、被告がホーンとパツシングによりこれを牽制したところ、原告車の動きが止まつたので、被告は、原告が被告車の存在に気が付いたと思い、安心して原告車の右側を通過しようとした。

その瞬間、原告車が転回の合図もしないまま急にアクセルをふかしダツシユをかけて右転回して来たため、被告車は、原告車を避ける暇もなく同車両に衝突され、被告は、被告車の下敷きになりながら反対車線を突き切つて歩道の車止めまで飛ばされ、右事故が発生した。

右主張から明らかなとおり、本件事故は、原告の本件過失のみにより発生したものであり、被告には、右事故発生に対する過失がない。

4  損害の填補

原告の主張

被告の本件損害の填補として、前記当事者間に争いのない金額以外に、原告は、被告の本件治療費合計金一一四万一六〇〇円(病院求償分を含む。)を支払つた。

被告の主張

原告の右主張事実は不知。

第三争点に対する判断

一  被告の本件治療経過(当事者間に争いのない分を除く。)

1  証拠〔甲三の4、5、13、四の1、2、8、乙二、七、八、一三、被告本人(一回)弁論の全趣旨。〕によれば、次の各事実が認められる。

市立伊丹病院

(一) 整形外科

平成元年八月三一日から同年一二月三一日までの実治療日数 四二日(同年八月中一日、九月中一七日、一〇月中一七日、一一月中三日、一二月中四日。)。

同年一〇月三一日から同年一一月四日まで五日間入院(断裂した尺骨神経に対する神経縫合術施行)。

平成二年一月一日から同年六月一日までの実治療日数 二二日。

(二) 歯科口腔外科

平成元年九月一日から平成二年一月九日までの実治療日数 一六日(平成元年九月中六日、一〇月中三日、一一月中二日、一二月中四日、平成二年一月中一日。)。

(三) 右両診療料の実治療日数中重複する日数 八日(同年九月中三日、一〇月中一日、一二月中四日。)。

なお、被告は、住居が伊丹市から神戸市に移転したこととそれ以上治療を続けても回復の保証がないとの理由で、平成二年六月一日を最後に右病院における治療を受けていないし、いずれの医療機関においても本件受傷の治療を受けていない。

(四) 右認定各事実から、被告に対する本件自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(乙一三)には同人の本件受傷は平成三年一〇月二四日症状固定した旨記載されているものの、同人の本件受傷は、実質的にみて平成二年六月一日に症状固定したと認めるのが相当である。

(五) 前記当事者間に争いのない事実及び右認定各事実を総合すると、被告の本件受傷とこれに対する治療との間に相当因果関係の存在を認めるに十分である。

2(一)  被告が昭和六三年八月二一日と平成二年一月一日に各交通事故に遭遇したことは当事者間に争いがない。

(二)  証拠〔甲五の1ないし3、三の13、乙一、被告本人(一回)、弁論の全趣旨。〕によれば、次の各事実が認められる。

(1)(a) 被告は、昭和六三年八月二一日、香川県大川郡志度町を自動二輪車で走行中同町内国道一一号線路上において普通乗用自動車との衝突事故に遭遇して転倒、同町所在救急病院(米沢整形外科病院)で診察を受けたところ、両肘・前腕・両膝擦過創と診断され、創処置(消毒)だけの治療を受けた。

同人は、その後の同月二三日、伊丹市内所在常岡病院において右受傷の診察を受けたところ、両肘・両膝打撲挫傷、右前膊神経障害と診断された。そこで、同人は、同日から同年一〇月二七日まで同病院へ通院(実治療日数四一日)して治療を受け、右受傷は、同年一〇月二七日、治癒と診断された。

(b) 市立伊丹病院整形外科医師加川明彦は、被告の本件受傷である右尺骨神経麻痺(断裂)は、本件事故によるものと診断している。

(2) 被告は、平成二年一月一日、奈良県吉野郡十津川村内路上において普通乗用自動車を運転し先行車両が停止したのでこれに続き一時停車したところ、後続車両に追突された。なお、被告は、右事故前約一時間三〇分右普通乗用自動車を運転したが、同車両の走行道路は平坦であつた。

被告は、右追突により軽い頸椎損傷(寝違い程度)を被り、本件受傷の治療を受けていた市立伊丹病院とは別の医療機関(桂外科)に、同年一月中一五日、二月中一五日、三月中一〇日の合計四〇日通院して同頸椎損傷の治療を受けた。

しかして、右頸椎損傷は、後遺障害も残さず治癒した。

なお、前記加川明彦医師は、本件受傷の治療と右頸椎損傷の治療とは全く関連がない旨言明している。

(三)(1)  右認定各事実を総合すると、当事者間に争いのない、被告が遭遇し受傷した前記両交通事故の存在は、本件事故と同人の本件受傷治療との間に相当因果関係を肯認する前記認定説示に対し、何らの妨げにならないというべきである。

(2) もつとも、前記常岡病院所属医師中院明彦作成の昭和六三年一一月一四日付診断書(甲五の2)には、両肘関節部の創やや強度、処置にて創の治癒を見るも右前膊神経症状等持続し難治也と記載されている。

しかしながら、右記載内容が被告の前記交通事故の右受傷による後遺障害に関するものなのかは右診断書自体から明らかでないし、かえつて、右診断書自体には、右受傷による後遺障害については未定と記載されており、右認定事実に照らしても、右記載内容は、被告の右後遺障害に関する記載と認め難い。

そして、他に右記載内容が右後遺障害に関するものであることを肯認させるに足りる証拠もない。

よつて、右診断書の右記載内容も、右(三)(1)における認定説示に対し、何らの妨げにならないというべきである。

二  被告の本件損害の具体的内容

1  通院交通費 金五万五三二〇円

(一) 被告の本件受傷内容、同人が同受傷治療のため行岡病院へ平成元年八月二九日一日通院したことは、当事者間に争いがなく、同人が同治療のため市立伊丹病院整形外科と歯科口腔外科へ通院したことは、前記認定のとおりである。

(二)(1) 弁論の全趣旨によれば、被告が本件通院に利用した交通機関は、平成元年八月二九日から同年九月三〇日までタクシー、平成二年一月一日から同年六月一日まで公共交通機関であるバスであつたこと、同タクシー代は往復金一六八〇円、バス代は往復金三六〇円であつたことが認められる。

(2) しかして、被告の本件受傷治療の平成元年八月二九日から同年九月三〇日までの実治療日数が二二日であり、同年一〇月一日から平成二年六月一日までの実治療日数が五一日(市立伊丹病院整形外科と歯科口腔外科との競合治療日を実質一日として計算。)であることは前記認定のとおりである。

(3) 右認定各事実を総合すると、被告は、本件受傷治療のため通院交通費として合計金五万一九六〇円を支出したことが認められるところ、同人の本件受傷の具体的内容、その治療経過に照らすと、右通院交通費合計金五万一九六〇円は、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)と認めるのが相当である。

(1680円×22)+(360円×51)=5万5320円

2  休業損害 金二四八万二一〇一円

(一) 被告の本件受傷の具体的内容は当事者間に争いがなく、同人の本件治療経過、特に同治療期間が平成元年八月二九日から平成二年六月一日までの合計二七七日であること、同人が平成二年一月一日に遭遇した交通事故による受傷治療のため同年一月から同年三月までの間実治療日数四〇日を要したことは、前記認定のとおりである。

(二)(1) 証拠〔甲二の5、乙九、被告本人(一、二回)、弁論の全趣旨。〕によれば、被告は、本件事故当時三一才(昭和三三年四月一〇日生)の男性であつたこと、同人は、昭和六三年五月、フイルム等の転写を事業内容とするレトリツク関西工芸有限会社を設立してその代表者になつたこと、同会社の事業そのものは、右事故当時、軌道に乗りつつあつたこと、しかしながら、その資金繰りが容易でなく、その実態は所謂自転車操業であり、同会社の収入と被告個人の収入(役員報酬)の区別が明確にし得なかつたこと、しかも、同会社の経営は、被告の右事故による本件受傷のため挫折してしまつたこと、したがつて、同人には、本件治療期間中、同会社経営からの収入が全くなかつたことが認められる。

(2) 右認定各事実に基づけば、被告には本件損害としての休業損害の存在を肯認すべきところ、同人が本件事故当時就労していたにもかかわらず、右休業損害算定の基礎収入が具体的に確定し得ないということに帰する。

このような場合、被告の右休業損害を算定不能として否定し去るのは相当でなく、同人の右基礎収入は信用し得る客観的資料によつて推認し、その金額を基礎として右休業損害を算定するのが相当である。

しかして、自動車対人賠償保険支払基準別表V全年齢平均給与額及び年齢別平均給与額表(平均月額)(乙一〇)によれば、被告の本件事故当時の収入は、月額金三一万四二〇〇円(日額金一万〇四七三円。円未満四捨五入。)と推認される。

(三) 右認定各事実を基礎として、被告の本件休業損害を算定すると、金二四八万二一〇一円となる。

ただし、被告が平成二年一月ないし三月中に同年一月一日発生の交通事故による受傷治療のために実治療日数四〇日を要したこと、同四〇日が本件治療と無関係であることは、前記認定のとおりであるから、同四〇日は、本件休業期間二七七日からこれを差し引くべく、したがつて、本件休業損害算定の基礎となる休業期間は、二三七日となる。

(31万4200円÷30)×(277-40)≒248万2101円

3  後遺障害による逸失利益 金二三〇万三七二二円

(一) 被告に障害等級一二級一二号該当の後遺障害が残存することは、当事者間に争いがなく、本件受傷の症状固定が平成二年六月一日であること、同人が本件治療期間中無収入であつたこと、同人の本件事故当時の収入が月額金三一万四二〇〇円と推認されることは、前記認定のとおりである。

(二) 証拠〔被告本人(一、二回)〕によれば、被告は、現在、本件後遺障害のためにその収入が減小していることが認められ、右認定事実に基づけば、同人は現在本件後遺障害によりその労働能力を喪失し、そのため経済的損失、即ち実損を被つているというべきである。

よつて、同人に本件後遺障害による逸失利益の存在を肯認すべきである。

(三)(1) 被告において、同人の本件労働能力喪失期間は五年と主張している。

しかして、同人が平成二年一月一日普通乗用自動車を運転していて交通事故に遭遇したことは前記認定のとおりであり、右認定事実は、同人の右主張事実に対し消極に作用するかの如くである。

しかしながら、証拠〔乙一三、被告本人(一、二回)。〕によれば、被告の本件後遺障害の内容は、自覚症状として、右手関節尺側から小指にかけての痺れ感、握力低下等であり、他覚症状及び検査結果として、右小指伸屈・右母指の内転の筋力低下、小指球筋等の筋萎縮、握力低下(右三九キログラム・左四一キログラム)、右小指・環指の知覚低下であること、同後遺障害には当面改善傾向が認められないこと、同人は、自動車の運転には慣れ得ても、指を使用する細かい手作業は満足にし得ないこと、同人は、日常生活上においても、指二本がポケツトの外に出ていても気が付かないし、指が熱い物に触れても判らないことが認められ、右認定各事実を総合すれば、前記交通事故の存在にもかかわらず、同人の本件労働能力喪失期間は、五年と認めるのが相当である。

(2) 同人の本件後遺障害による労働能力喪失率は、右認定各事実を主とし、これに所謂労働能力喪失率表を参酌して、一四パーセントと認めるのが相当である。

(四) 右認定説示を基礎として、被告の本件後遺障害による逸失利益の現価額をホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金二三〇万三七二二円となる。(新ホフマン係数は、四・三六四三。円未満四捨五入。以下同じ。)

(31万4200円×12)×0.14×4.3643≒230万3722円

4  慰謝料 金一五〇万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、被告の本件慰謝料は、金一五〇万円が相当である。

5  被告の本件損害の合計額 金六三四万一一四三円

三  過失相殺の成否

1  本件事故の発生、原告の本件責任原因の存在、原告の本件過失相殺に関する主張(一)中原告車の本件転回の際の速度を除くその余の事実、同(二)中被告が右事故直前被告車を運転し原告車の後方を同車両と同一方向に向け進行していたこと、被告車の右側路上にゼブラゾーンが設置されていたこと、被告が右事故直前原告車の右側を通過しようとしたことは、当事者間に争いがない。

2(一)  証拠〔甲二の1ないし4、乙三の1、被告本人(一回)の一部、弁論の全趣旨。〕によれば、次の各事実が認められる。

(1) 本件事故現場におけるゼブラゾーンは、本件道路の中央線を中心として幅員二・四メートル(同中央線から東西へ各一・二メートルの幅員)で設置されている。

右事故現場において、原告車から後方、被告車から前方への各見通しは、いずれも良好

(2) 原告は、本件転回の際、右方へ転回の合図をせずに、原告車の速度時速約五キロメートルで転回を開始した。同開始時における同車両の右側(西側)面と本件ゼブラゾーンの東端との間隔は、約〇・五メートルであつた。

原告車が対向車線に向け右転回を開始し、同車両が約二・八メートル斜め前方に進行して、同車両の右前角部が本件道路の中央線付近に至つた時、同車両の同部分と被告車の左側面部とが衝突し、本件事故が発生した。

(3) 被告は、本件事故直前、急いでいたため右側通行になることを知りつつ被告車を本件道路の中央線方面に寄せ、時速約四〇キロメートルの速度で走行させていた。そして、同人は、被告車が本件事故現場付近に至つた時、突然渋滞車列中から原告車が右転回して来るのを認め、とつさに危険を感じ被告車のブレーキを掛けたが間に合わず、右事故が発生した。なお、被告車は、長さ二・二メートル、幅〇・七一メートル、高さ一・二七メートルである。

(二)(1)  右認定各事実を総合すると、被告は、本件事故直前、渋滞車両を追い抜こうとして、被告車を時速約四〇キロメートルの速度で自車進行方向の右端に当たる本件ゼブラゾーンの東部分内を走行させ、しかも、自車前方の渋滞車両の動向に十分な注意を払わなかつたため、右事故を発生させたと認めるのが相当である。

(2) 右認定に基づくと、本件事故の発生には、被告の右認定説示にかかる過失も寄与しているというべく、同人の同過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌するのが相当である。

右認定説示に反する被告の主張は、理由がなく採用できない。

しかして、右斟酌する被告の本件過失の割合は、前記認定にかかる全事実関係に基づき、全体に対して二〇パーセントと認めるのが相当である。

3(一)  ところで、原告は、当事者間に争いのない本件損害の填補の外に、被告の本件治療費合計金一一四万一六〇〇円の支払いを主張しているところ、証拠(甲三の2、3、5、四の二、五の3、乙五、弁論の全趣旨。)によれば、原告の右主張事実が認められる。しかして、被告が右治療費を本件損害費目に計上していないことは、同人の本件訴訟資料から明らかである。

しかしながら、紛争の一回的解決の見地から、右治療費合計金一一四万一六〇〇円も本件過失相殺の対象となる被告の本件損害中に加え、その総損害額を前記認定の本件過失割合で所謂過失相殺するのが相当である。

(二)  右説示にしたがい、被告の前記認定にかかる本件損害合計額金六三四万一一四三円に右治療費合計金一一四万一六〇〇円を加えた本件総損害額金七四八万三七四三円を、前記過失割合で所謂過失相殺すると、その後における右損害額は、金五九八万六一九四円となる。

四  損害の填補

被告が本件事故後原告からの直接払い分金一一九万七一八四円、自賠責保険金金二一七万円を受領したことは、当事者間に争いがなく、原告において被告の本件治療費合計金一一四万一六〇〇円を支払つたことは、前記認定のとおりである。

したがつて、本件損害の填補額は、合計金四五〇万八七八四円となる。

そこで、右金四五〇万八七八四円は、被告の本件損害に対する填補として、前記認定の本件損害金五九八万六一九四円から、これを控除すべきである。

右控除後の、被告が原告に請求し得る本件損害額は、金一四七万七四一〇円となる。

五  弁護士費用 金一五万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、本件損害としての弁護士費用は、金一五万円と認める。

第四全体の結論

以上の全認定説示に基づき、被告は、原告に対し、本件損害合計金一六二万七四一〇円及び内金一一九万二〇七八円に対する平成三年六月八日(被告自身の主張に基づく、本件事故後で本件反訴状送達の日。)から、内金四三万五三三二円に対する平成三年一〇月二四日(被告自身の主張に基づく。)から、いずれも支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利を有するというべきである。

よつて、原告の本訴請求並びに被告の反訴請求は、いずれも右認定の限度で理由があるからその範囲内でこれらを認容し、その余は、いずれも理由がないから、これらを棄却する。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 平成元年八月二九日午後二時三〇分頃

二 場所 大阪市北区中津六丁目一〇番一八号先路上(国道一七六号線上)

三 加害(原告)車 原告運転の普通乗用自動車

四 被害(被告)車 被告運転の自動二輪車

五 事故の態様 原告車が、本件事故現場において、渋滞車列中から右転回する際、同車両の右側後方から直進して来た被告車と衝突した。

以上

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